中田 薫さん「『ツリーハウス』を地域活動の拠点に」

(「ネットワークNHK11月号」から)

8月下旬、 まだ猛暑にしかめっ面をしつつも風のnakata 優しさを感じ始めたころ。 茨城県を流れる那珂川の下流域に臨む 「御前山」 北麓に広がる伊勢畑を訪れた。 やや開けた斜面にそそり立つ、 ひときわ大きな栗の木に目指す 「ツリーハウス」 が設営されていた。
    地上4メートル。 製作している中田さんの案内で、樹上の住まいへと続く階段を踏みはずさないように登ると、 広さ8畳ほどのデ ッキに出た。 すぐさま目には、遠くの緑豊かな丘陵が飛び込んできた。 ひと呼吸して足を踏み入れると、 なんと揺れた。 木の上にいることに気づいた瞬間である。 しかし、 木が軋んで危険が迫る不安はない。 足元のデッキ越しに草で敷きつめられた斜面が見える。 この微妙な揺れは、 まさに空中にいるという新しい感触だ。自然には抵抗できないことを覚悟しつつ、 身を委ねてしまう妙な気分だ。thouse
このデッキは、 ボルトを幹に直接打ち込んで取りつけられている。 ロープで幹を締め上げると、 養分が通る樹皮が全面的に遮断されるため、 木の成長を妨げてしまう。 対して樹皮を貫くこの工法は、 木の負担がボルトの太さ部分だけで済む。 「ツリーハウスの極意は 〝プロセス〞 にある。 過程そのものが目的なのだ。 母樹の成長によ っ て常に形を変えて行く。 従 っ て完成することはない」 。 こう中田さんは語る。 着工より2年を経て、 デッキには2畳ほどの小屋を整備中である。 名づけて 「二畳城」 。 中にはベ ッドがあり、 満天の星空に見守られて眠る日も近い。
中田さんが伊勢畑との間を行き来するようにな っ て8年になる。 ある日、 放送博物館を訪れた人物との出会いが、 この地域の 「ふるさと村」 活動を知るきっかけになった。 多くの地域で人口の減少と高齢化が進み 「限界集落」 とまで言われる中、 自然との豊かな暮らしを見直して自ら活性化しようと、 伊勢畑の人たちが立ち上がったのだ。 もとより 〝ことば〞 の表現について究めてきた中田さんは、 都会の子どもたちを集めて日本の古典を朗読する勉強会を主宰した。 また、 棚田での自然観察会も企画すtanadaるなど 「ふるさと村」 活動に深く共感し、 伊勢畑の人たちと心を通わせていく。
この 「ツリーハウス」 は、 伊勢畑の人たちから提供された土地に、 中田さんが私財を投じることにより実現した共同作品である。 「森の精気の中で声に出す、 その爽やかな発声を実感するところから始めたい。 〝ことば〞 は、 ふさわしい環境の中でこそ身につくものだ」。「ツリーハウスを表現の舞台にしたい」 。中田さんの実践活動は始まったばかりだ。
(文 ・ 東京旧友会安部道)

中田 薫さん 昭和17年生。昭和40年入局、室蘭局配属。アナウンス室、金沢・広島・福岡局などを経て平成9年6月~12年5月 アナウンス室長。平成12年退職。平成13年7月~18年9月NHK放送博物館長。

 

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