松本太郎さん 「定年のない人生」

(「ネットワークNHK」4,5月合併号から)

 八十歳を超えてなお「現役」つまり「元気」で他人様の「役に立つ」男がいる。
 中高年層が対象の講座を開き、先生として慕われ、とりわけ女性に人気がある小柄で温厚な松本太郎君だ。
 太郎君は昭和の半ば三十二年に入局した。この年四月からNHKの公文書は縦書きから横書きになった。テレビ受信契約が百万に達したのは翌年の五月だ。
 太郎君の講座は在職中の仕事とは違った分野だ。だが、二十代に勤務した中央研修所や、放送研修センター設立時の勤務経験から、相手の立場にたってのコミュニケーションや受け手のモチベーションをいかに高めるかなど、教わる人の気持ちを心得ているので評判が良い。
 講座は太極拳だ。自ら教室を開くかたわら各地のカルチャーセンターなどで教えている。
 自分の健康を維持するため始めた太極拳だが、その奥深さに惹かれ、精進の結果、指導者の資格を得た。 太極拳上級指導者、生明(あざみ)太郎の誕生だ。歴史にこだわる彼は、実父の旧姓を使うことを父へのオマージュとしたのだ。
 太極拳は深いところで中国武術と関わっている。二千二年の日中国交正常化三十周年の記念式典に招かれるなど太極拳を通じて民間レベルでの日中交流にも寄与している。
 もう一つは歴史現地講座だ。退職後、旅行作家協会に属し、書き物作家を目指した。しかし行動派の太郎君は「書を捨てよ、町へ出よう」を実践すべく、時空の旅人になった。
 教室は関東が中心だが、桜や紅葉の季節には奈良京都や東北などで開催する。博学多識の太郎君の説明は好評で、大手旅行会社のツアーに講師として名を連ねている。講座は 毎回欠員待ち状態だ。
 受講生はどこまで伸びるか。営業部門に籍を置いた太郎君、密かに目標を抱いている。八十を超えても前向きだ。
 「明日も元気で役に立つ」をモットーに旅の達人松本太郎、中国武術健身協会顧問生明太郎先生は、受講生の期待に応えるよう今日もプランを練っている。
                        (文・東京旧友会 加藤 省吾)

松本太郎さん  昭和10年(1935年)生まれ。昭和32年入局。名古屋・庶務課を振り出しに、東京、甲府、奈良などで主に総務・人事、営業業務に従事。平成4年退職