齋木 信治さん「ふるカフェから茶屋文化発信」

(「ネットワークNHK」8,9月号から)

    加賀百万石の城下町金沢は、北陸 新幹線開業効果で今、大勢の観光客が訪れてにぎわっている。人気のスポットは、金沢城・兼六園、金沢 21 世紀美術 館、そして茶屋街だ。齋木さんの喫茶 店『土  家(つちや)』は、浅野川沿いのしっとりとした街並みの主計(かずえ) 町茶屋街の一角にある。大正2(1913)年に建てられた お茶屋で、日本舞踊家の奥さま妙子さ んの祖母のご親族が昭和 40 年代まで営 業していたもの。10 年前の浅野川豪雨 災害でこの一帯も浸水被害をうけた際「貴重な古い建物を壊すことはできな い。茶屋喫茶店に改修して、家族で協力してやっていこう」と決意。72 歳での挑戦だった。
    店に入ると正面に漆に磨かれた欅 けやきの階段・木虫籠(きむすこ)と呼ばれる目の細かい格子戸・室内の三味線掛け・手提げ提灯入れ木箱など、そこかしこにお茶屋の 風情が感じられる。『土家』では、客が席につくと注文の前に、まず輪島塗の器でお茶と和菓子が出される。これはサービスで客間の赤壁や美しい欄間などをしばし眺めてもらいたいとの店主 のはからい。また、月に2回程度、若手音楽家が洋楽や邦楽を披露する「土家de 音楽」の無料ミニコンサートも催されている。娘の横笛奏者・藤 舎(とうしゃ)真衣さんが、国内外で活躍する縁から生まれた イベントで、芸妓の踊りの代わりに音楽でお茶屋文化を味わってもらう趣向だ。
     平成 25 年に金沢市指定文化財(建 物)となり、以降、雑誌やテレビで度々紹介されている。外国人や全国からの観光客が急増した今もひとりで対応する齋木さんの体力は大丈夫か気がかりだが「昔から骨董や古い町家が好きだったので、お客様には茶屋建築の特徴を 説明したり、観光案内までしている。戦 災を免れた金沢の街並みや伝統文化を知ってもらい、好きになってもらいたいから」とゆったりとした金沢弁には、80 歳とは思えないエネルギーを感じた。
(文・金沢旧友会 田中 文一)

齋木信治(さいき しんじ)さん 昭和13年(1938年)生まれ。 昭和35年入局。金沢、東京、名古屋、 静岡、広島などを経て、平成5年金沢局 を最後に退職。テレビニュース編集一 筋で報道現場を支えた。